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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)4899号 判決

原告・反訴被告 国

代理人 高田敏明 松本悦夫

被告・反訴原告 埜村茂次郎

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載(二)の建物を収去して同目録記載(一)の土地を明渡し、かつ、別紙損害金等一覧表記載の金員(同一覧表〈10〉ないし〈21〉の合計額)を支払え。

二  反訴原告の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は本訴・反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

四  この判決は主文一項について仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告(反訴被告)

主文と同旨

2  被告(反訴原告)

(一)  原告の本訴請求を棄却する。

(二)  反訴被告は反訴原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は本訴・反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。

二  当事者の主張

1  本訴請求原因

(一)  原告(反訴被告)(以下原告という)は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を所有している。

(二)  被告(反訴原告)(以下被告という)は、昭和五六年一一月一八日以降同目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を所有し、その敷地である本件土地を占有している。

(三)  本件土地の昭和五六年一一月一九日以降の使用料相当額は、別紙損害金等一覧表の〈10〉〈15〉〈19〉記載のとおりである。

(四)  よつて、原告は被告に対し、本件土地の所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地を明渡し、かつ、別紙損害金等一覧表記載のとおり、本件土地の使用料相当損害金及びこれに対する年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  本訴請求原因に対する認否及び主張

(一)  本訴請求原因(一)、(二)の事実は認めるが、(三)の事実は争う。

(二)  被告は昭和五六年一一月八日小谷康一から本件建物を代金八〇〇万円で買受けたが、その際同人から、本件土地は国有地であるがその使用を許されており、本件建物の所有権保存登記がなされているのもそのためであると聞かされた。そこで、本件建物の登記簿を確認したところ、同人の言に相違なく、また不動産評価証明書の交付も得られたので、同人の言を信じて本件建物を買受けることにしたものである。

3  反訴請求原因

(一)  右のごとく、被告は小谷名義で本件建物の所有権保存登記がされていることを確認したうえで、同人から本件建物を金八〇〇万円で買受け、その所有権を取得した。

(二)  本件建物が本件土地の正当な使用権原なくして建てられているとすれば、登記官が本件建物の登記手続を認めたのは違法である。すなわち、建物の表示登記や所有権保存登記を申請するには、「申請人ノ所有権ヲ証スル書面」(不動産登記法九三条二項)又は「必要ナル証明書類」(同法一〇一条一項)を添付すべきものとされており、右の書面又は書類には敷地の正当な使用権原を証する書面をも含むところ、登記官は右書面が添付されていないのを看過して本件建物の表示登記や所有権保存登記の申請を受理しただけでなく、国有地である本件建物の敷地の使用権原の有無を審査することは容易であつたのに、その審査を尽さず右登記手続を認めた。

(三)  被告は本件建物の登記を信頼してこれを買受けたのであるから、原告の本訴請求に応じなければならないとすれば金八〇〇万円の損害を被ることになり、右損害のうち少くともその二分の一の金四〇〇万円については、原告に賠償義務がある。

(四)  よつて、被告は原告に対し、不法行為による損害賠償として右金四〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一月二二日(反訴状送達の日の翌日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

4  反訴請求原因に対する認否及び主張

(一)  反訴請求原因(一)の事実中、小谷名義で本件建物の所有権保存登記がされていること、被告が本件建物を所有していることは認めるが、その余は不知、同(二)、(三)の事実は争う。

(二)  建物の表示登記を申請する際に添付すべき「申請人ノ所有権ヲ証スル書面」とは、建築確認通知書、竣工検査済証、固定資産税の納付証明書など、申請人の建物の所有権が一応推認されるものであればよく、また建物の所有権保存登記を申請する際に添付すべき「必要ナル証明書類」とは、既に表示登記がされ、表題部に所有者として記載されている者が申請人の場合には、その者の居住証明書等であればよいから、いずれについても当該建物の敷地使用権原を証する書面の添付を要しない。

三  証拠<略>

理由

一  本訴請求について

1  本訴請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、同(三)の事実が認められる。

2  被告が主張する本件土地の占有権原については、その立証がない。

3  そうすると、被告は原告に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡し、かつ、別紙損害金等一覧表〈10〉ないし〈21〉記載のとおり、本件土地の使用料相当損害金及びこれに対する年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

二  反訴請求について

1  本件建物につき小谷康一名義の所有権保存登記がされていること、被告がこれを所有していることは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、大阪法務局八尾出張所の登記官は、小谷が本件土地を使用する権原を証明する書面の添付がなく、また調査の結果右権原を確認できないまま、同人の申請に基づき、昭和五六年九月七日付で本件建物の表示登記をし、同月九日付で本件建物の所有権保存登記をしたことが認められる。

2  被告は、本件建物が本件土地の正当な使用権原なくして建てられているとすれば、登記官が本件建物の登記手続を認めたのは違法であると主張する。しかし、建物の所有者は、新築時に表示登記を申請する義務があり(不動産登記法九三条一項)、表示登記をした後に所有権保存登記を申請できるものとされている(同法一〇〇条一号)ところ、これらの登記は、建物の客観的現況や所有権者を公示することを目的としているから、建物が物理的に存在する以上、その所有者が敷地の使用権原を有するか否かに関係なく登記されるべきものである。したがつて、他人の土地に無断で建築された建物について表示登記の申請があつた場合でも、登記官としては、添付書類や実地調査によつて申請人がその所有者であると認められ建物の位置・形状等が申請書の記載と相違がなければ、右申請を受理しなければならず、また、登記簿の表題部に所有者として表示されている者から所有権保存登記の申請があつた場合には、たとえ申請人が敷地の使用権原を有しなくても、登記官としては、右申請を受理すべきである。

3  被告は、建物の表示登記や所有権保存登記を申請する場合に添付すべき「申請人ノ所有権ヲ証スル書面」(不動産登記法九三条二項)又は「必要ナル証明書類」(同法一〇一条一項)には敷地の正当な使用権原を証する書面をも含むと主張するが、右の理由でいずれの登記についても、敷地の使用権原を証する書面の添付を必要とするものではない。

なお、不動産登記事務取扱手続準則(昭和五二年法務省民三第四四七三号民事局長通達)一四七条一項は、建物の表示登記申請書の添付書面のひとつとして「敷地所有者の証明書」を掲げているが、右は建物確認通知書、竣工検査済証、建築請負人の証明書などと共に、申請人の建物所有権取得を証する書面を例示したに過ぎず、しかも表示登記は本来登記官において職権調査をしてなすべきものであつて(不動産登記法二五条ノ二)、申請書の添付書面は登記官の調査資料としての意味を持つにとどまるから、建築確認通知書や竣工検査済証などによつて申請人の建物所有権を認定できる場合には、敷地所有者の証明書を添付する必要はないと考えられ、これを添付すべき場合でも、その証明の対象となるのは申請人の建物所有権であつて、敷地の使用権原ではないというべきである。

4  したがつて、本件建物の表示登記及び所有権保存登記は何ら違法でなく、被告の原告に対する損害賠償請求は失当である。

三  結論

してみると、原告の本訴請求は理由があるので認容し、被告の反訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木敏行 紙浦健二 梅山光法)

損害金等一覧表<略>

別紙図面<略>

物件目録<略>

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